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内科
難治性消化器疾患への取り組み
慢性消化器疾患について

動物は様々な原因で消化器症状(下痢、嘔吐、食欲不振)を引き起こします。ストレスや食事など日常的なものから命に関わる重篤な疾患まで、その原因は多岐にわたります。

“消化器症状”とはいえ、必ずしも消化器(胃腸)自体に原因があるとは限らず、様々な側面から検査が必要です。

検査について
  • 血液検査
  • レントゲン検査
  • 超音波検査
  • 糞便検査
  • CT検査
  • 内視鏡検査
慢性消化器疾患の原因となるもの
慢性炎症性腸症について

慢性炎症性腸症(Chronic inflammatory enteropathy: CIE)は3週間以上継続する慢性、再発性の消化器疾患群の総称です。 食事、生活環境、腸内細菌叢、過剰な免疫応答といった多因子が関与している疾患群であり、消化器症状を引き起こす様々な疾患を除外したうえで診断されます。

慢性炎症性腸症の病態
治療について
  • 食事療法(低アレルゲン食、低脂肪食、繊維増強食)
  • プロバイオティクス・シンバイオティクス
  • グルココルチコイド
  • 免疫抑制薬
  • その他(腸内細菌叢移植、脂肪幹細胞など)
脂肪幹細胞移植
脂肪幹細胞移植とは

健康なドナー犬から採取した脂肪組織から幹細胞を抽出し、体外で増やしてから再び体内に戻す治療法です。 体内に移植された幹細胞は損傷した部分の修復や炎症の抑制を助ける働きがあり、様々な疾患の治療に応用されています。

治療の特徴
  • 自己修復力のサポート
    幹細胞は「小さなお医者さん」とも呼ばれ、体の損傷部位に集まって修復を促します。
  • 副作用が少ない
    重い副作用はほとんどなく、まれに軽い発熱などがみられる程度です。
  • 幅広い疾患に対応
    慢性腸炎(CIE)だけでなく、腎臓・肝臓疾患、自己免疫疾患、神経疾患などにも応用されています。

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健常犬からの脂肪採取

健常犬から皮下脂肪を採取します。採取した細胞は酵素処理を行い、培養の準備をします。

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採取した細胞の培養

専用の培養器で投与可能になるまで 継代培養を行います。

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患者への投与

投与は静脈点滴で行います。通常、30分から1時間程度で終了するため、外来で投与が可能です。

糞便移植療法

近年、ヒト医療において腸内細菌叢と各疾患との関連性が指摘されています。 炎症性腸疾患(IBD)や大腸がんなどの消化器疾患のみならず、肥満、心血管疾患、精神疾患、自己免疫疾患など様々な病気に関わっていると考えれられています。

糞便移植療法とは
  • 糞便移植療法(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)は、健康な犬の糞便に含まれる多様な腸内細菌を、慢性炎症性腸症(CIE)など腸内環境の乱れが関与する疾患を持つ犬の腸に移植する治療法です。 これにより、乱れた腸内細菌叢(腸内フローラ)を正常化し、腸の健康状態を回復させることを目指します。
  • FMTは、従来の薬物療法(ステロイドや免疫抑制剤など)だけでは十分な効果が得られない難治性のCIEや、再発を繰り返す慢性下痢、食事療法や抗菌薬で改善しない症例などに対して、新たな治療選択肢として注目されています。
治療の特徴
  • 安全性と副作用の少なさ
    FMTは、これまでの研究や症例報告で重篤な副作用はほとんど報告されておらず、比較的安全に実施できる治療法です。一時的な下痢など軽度の副作用がみられることもありますが、多くは自然に改善します。
  • 治療効果の現れ方
    FMT実施後、数日から1週間程度で消化器症状の改善がみられることが多いですが、複数回の移植を行うことで長期的な寛解や症状の安定が得られる場合もあります。
  • 施術方法とプロトコール
    健康なドナー犬の新鮮または冷凍保存した糞便を、滅菌生理食塩水などで溶解し、主に直腸カテーテルによる浣腸や経口投与で移植します。1回の投与で効果が見られることもありますが、多くの場合は2~3週間ごとに複数回実施することで、より安定した効果が期待できます。
  • 他の治療との併用
    FMTは単独でも効果が期待できますが、従来の食事療法や薬物治療と併用することで、より高い治療効果が得られる場合があります。

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ドナーからの糞便採取

健康なドナーから糞便を採取します。新鮮な便のほか、緊急的な移植に対応できるよう凍結便も保存してあります。

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移植液の準備

滅菌生理食塩水で糞便を溶解・ろ過します。移植液には健常犬由来の腸内細菌が多数含まれています。

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移植の実施

移植液を患者に投与します。原則として直腸カテーテルでの投与になるため鎮静や麻酔は不要です。