ヒトや動物は、骨折や傷を受けた場合、しばらくすると自力で修復する再生能力を持っています。
この再生能力に着目し、障害に陥った組織・臓器の再生及び機能の修復をめざす医療のことを再生医療といいます。
再生医療では、体内の様々な細胞に変化する可能性を持った幹細胞を用います。
再生医療への応用が期待されている主な幹細胞は「体性幹細胞」「人工多能性幹(iPS) 細胞」「胚性幹(ES) 細胞」ですが、
動物の再生医療には、骨髄や脂肪組織内に存在する「体性幹細胞」を用います。
脂肪幹細胞とは?
脂肪組織内に存在する体性幹細胞で、それぞれの組織や臓器の基となる細胞を生み出す「母細胞」“Master Cell”です。
幹細胞は、自分と同じ幹細胞を複製しながら、同時に組織や臓器を構成する細胞を分裂によって生み出していく能力を有しています。
脂肪幹細胞は様々な細胞に分化する能力を有している!
多分化能確認試験結果
脂肪幹細胞が骨細胞や軟骨細胞に分化していることが分かります。
細胞調整室で細胞の培養・保存を行っています
本センターでは、既存の治療では改善しない症例に再生医療の治療を受けられるように細胞調整室の準備をしました。
細胞調整室
脂肪幹細胞の分離培養操作
脂肪幹細胞の形態観察
健康な犬の避妊手術時に飼い主様から同意を得て小指頭大の皮下脂肪を採取し、その脂肪から幹細胞を分離した約100万個~1,000万個(1×106 ~ 107個)に増殖させた幹細胞を液体窒素あるいは-80℃に保管しておきます。
肪由来間葉系幹細胞の同種他家移植は、緊急の治療を必要とする症例に対して細胞移植治療を可能とします。
さらに大量に品質が管理された細胞の準備ができ多くの罹患犬(患者)に治療機会を提供することができます。
脂肪幹細胞は“万能薬”ではありません
脂肪幹細胞は“万能薬” ではなく生体の再生能力とうまく合致できた症例のみが奇跡のような回復を示しています。
現在の脂肪幹細胞療法は、治療法が高価であるにも関わらず必ず治癒するという保証はどこにもありません。
まして、幹細胞の各種症例における治癒過程を詳細に証明した論文もあまり見当たらないのが現状です。
脂肪幹細胞はすべての疾患に効果をもたらす“万能薬”であるという言葉が先に進むことは生命科学者の一員としては避けなければなりません。
今後、脂肪幹細胞療法は、多くの開業医でも手軽に行われ、それに伴って臨床データが蓄積され広く臨床分野に浸透していくことは確実であります。
しかしながら、その脂肪幹細胞を安全でしかも培養技術が影響されないクオリティの高いものを患者へ投与するにはまだ時期早々な感じもいたします。
近い将来、脂肪幹細胞の培養を無菌化の環境で実施され、まったく培養技術の影響が無くコンスタントに脂肪幹細胞が作製されていけば、多くの開業医の先生方がこの再生医療を応用することが可能であると思われます。
それは、安全度の高い密室のクリーンルームでロボット操作することであります。
当センターでは2018年に国内初の再生医療操作ロボットを導入する計画です。
より安全で高品質な脂肪幹細胞をこのロボットを通して患者へ再生医療を提供できるものと確信しております。
奇跡は起きた!治療例のご紹介
頚椎椎間板ヘルニア(既存の治療で改善されなかった)の治療
「みて!あるけたよ!」
3 か月間寝たきりで頭もあまり起こせない・・・
横に寝たきりのモカちゃん!
いつ立つことができるのかなあ~
幹細胞 1.0×106個を毎週2回、2週間にわたって投与
お父さんのところへ・・「 みて!あるけたよ!」
(AdAM玄関前)
大藤さん!息子さんと感激してます!
胆嚢粘液嚢腫による胆汁分泌障害に伴う肝不全の治療
胆嚢粘液嚢腫は、胆嚢内に極度に粘液性の高い凝塊が形成されることで、胆嚢の機能障害、胆管閉塞、壊死性胆管炎などの障害を呈する疾患であり、
診断および外科治療が遅れると胆嚢破裂に発展し、その場合死亡率も高くなる疾患です。
- 【犬種・性別・年齢・体重】
- ポメラニアン・去勢オス・11 歳・4.9Kg
- 【診断】
- 胆嚢粘液嚢腫による胆汁分泌障害に伴う肝不全
- 【全身症状・臨床所見】
- 食欲不振、腹水貯留、肝腫大
- 【血液検査】
- T-Bil、ALT、AST、ALPの上昇
- 【エコー所見】
- 胆嚢の確認できず(胆嚢破裂を疑う)
黄疸、腹水の貯留、胆汁ウッ帯および肝外胆管の拡張が観察され、
血液生化学検査により著しい肝酵素(TBil、ALT、AST、ALP、NH3)の上昇が認められました。
内科的な既存療法による症状および肝酵素値の改善は認められなかった症例です。
肝酵素値は、肝臓機能数値が高値を示し、肝細胞の重度な障害が示唆された症例です。
幹細胞 1.0×106個を毎週1回、4週間にわたって投与
【経過】
幹細胞投与前、投与後9 週目で肝酵素値が各々T-Bil(2.0→0.1)、ALT(503→39)、AST(194→23)、ALP(Over3500→274)に低下した。
食欲・活動性も改善された。
T-Bil(総ビリルビン)
胆道の通過障害がおきると、行き場のなくなった胆汁に含まれるビリルビンが血液中に入り込み、黄疸が表れる。
ALT(アラニン・アミノトランスフェラーゼ)
アミノ酸合成に必要な酵素。急性・慢性肝炎、脂肪肝などが原因でこの数値が高くなる。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
肝疾患により肝細胞が破壊されると、血液中に遊出する。
ALP(アルカリ・フォスファターゼ)
アルカリ性の状況下でリン酸化合物を分解する酵素。肝臓と骨の異常により、この数値が高くなる。
γ-GTP
肝臓で作られる酵素で、通常は肝細胞、胆管細胞、胆汁中にも存在しています。
特に、胆汁うっ滞や胆管細胞が破壊されると、酵素が血中に漏出して高値を示します。
高ビリルビン値を示した重度肝障害の治療
- 【犬種・性別・年齢・体重】
- トイプードル、雌(避妊済)、4歳11カ月齢、体重3.2kg
- 【全身症状・臨床所見】
- 食欲低下、嘔吐、元気消失。目視で両耳に黄疸認める。
エコーで総胆管閉鎖所見なし。肝実質にエコーで円状のものが多数散在。
肝酵素値は全て高い値を示していた。
幹細胞 1.0×106個を1日1~2回、計14回投与(頻回投与)
【経過】
T-Bil、ALT、AST、ALPが図のように低下した。
投与後2日目(計3回投与)黄疸の耳に赤み(血行)がでてきた。
投与後4日目(計9回投与)急に元気になって活動性があがる。尾を振るようになった。
投与後5日目(計10回投与)自分で水を飲むようになった。
投与後7日目(計13回投与)催促で吠えるようになった。
投与後13日目(14回投与終了後5日目)自分でご飯を食べるようになった。
幹細胞投与と血液検査推移
再生医療に関するQ&A
Q1:再生医療とは?
A:壊れた細胞をもとに戻すことなんです。お腹の皮下脂肪から様々な細胞に分化する“幹細胞” を取り出して特殊な培養液で増やし、再び体に戻してやるのです。
体に入った幹細胞は、壊れた細胞から放出されているSOSの信号に向かっていき修復します(フオーミング)。
Q2:動物では再生医療の実績があるのですか?
A:伊藤院長は、国内で初めてイヌの脊髄損傷(椎間板ヘルニアなど)や重度肝障害の脂肪幹細胞の治験が農林水産省から受理され多くのデーターが得られています。
Q3:脂肪幹細胞は、どんな病気に対しても効果があるのですか?
A:ヒトの脂肪幹細胞でも多くの病気に対する実績が論文で報告されていますがすべての病気が快復するというデーターはありません。
犬でも重度な椎間板ヘルニアでは約3 割しか起立することができませんでした。
でも重度な肝臓障害は約8割が改善されています。
これから多くの病気に対してデーターを積み重ねていくことが重要です。
Q4:今まで“奇跡的”な事例はありましたか?
A:数症例が劇的に改善されたことはあります。
肝臓障害で黄疸を伴い起立することもできなく既存の治療に対して全く反応しなかった例では、脂肪幹細胞の頻回投与で劇的な改善が認められ現在でも普通に飼い主さんと一緒に過ごされています。
椎間板ヘルニアで6カ月間後肢の麻痺が続いて排尿、排便が自力でできなかった例や、
3か月間、頸椎ヘルニアで起立が出来ず寝たきりの例では、
脂肪幹細胞を投与後に起立ができ症状も改善されたという“奇跡”的な事例を数症例ほど経験しています。
Q5:既存の治療に全く反応がなかった病気に対して脂肪幹細胞を投与すべきですか?
A:前にも述べていますが脂肪幹細胞は全てが改善するという“万能薬”ではありません。
その病気に対してどれだけのエビデンス(確証)があるのか?あるいは重症度など脂肪幹細胞治療の経験を積んでいる先生と相談しながら投与すべきかを決めることが大切です。
Q6:脂肪幹細胞の治療費は高価ですか?
A:脂肪幹細胞が40,000円~で、血管注射を含めて約49,000円~となっております(診察料別)。
当センターでは、4回治療を目安として実施しています。
Q7:脂肪幹細胞はどの施設でも同じ効果を発揮するのですか?
A:私たちは3企業の脂肪幹細胞の様々なサイトカインを測定したところいずれもその値は異なっていました。
おそらく培養細胞液も違いますし、培養技術者も異なりますので全て同じ効力を有しているとは思っていません。
将来に向け高品質で安全性の高い脂肪幹細胞が作製されるには一定の操作を行う培養ロボットが不可欠であると思われます。